2017年1月14日土曜日

ゆにばーすっ!





「どうして僕達が戦わなきゃならないっ!」


僕は精一杯の声でそう叫んだ。
けれども彼女は止まらない。その瞳にいっぱいの涙を溜めたまま……

――ゆにばーすっ!最終章~楽園~――



そして僕達は互いを求め合うように、滅びの預言をなぞり始めた。



 月を背にした現世の皇女は、目を閉じて呟く。

 「私達は、その為に――生まれたんだよ?」

 突如、空が落ちてきたかのような衝撃がマサキを襲った。
 重力範囲を任意で入れ替える超科学の力。その元凶たるネックレス型のデバイスが、彼女の胸元で明滅していた。

 ネックレスに収められているのは数千年を生きた仙人の身を封じた石のかけら。
 調停を司る者、救済を代行する者、審判に導く者。いくつもの呼び名を持つ評価型人工知能(イニシエのヒト)[原始天尊(リチャード・グレンヴィル)]が、彼女を介して辺り一面に加圧の呪いを展開したのだ。

 マサキの視界から光が薄れ、景色が歪む。その中で、彼女の体がゆっくりと宙に浮かぶ。重力の入れ替えにより発生した反重力場が、彼女に掛かる荷重を打ち消しているのだろう。
 華奢な体が宙(そら)に舞い、月を背負う。その姿に、マサキの持つ評価型人工知能(イニシエのヒト)が反応した。

 ――討テ! アレヲ討テ!――
 
 評価型人工知能(イニシエのヒト)がしきりに叫び、彼の精神に干渉し始める。

 ――討テ! アレヲ討テ!――

 評価型人工知能(イニシエのヒト)はマサキを煽る。
 普段であれば間違いなく気絶させられているだろう評価型人工知能(イニシエのヒト)の力の暴走。磁場PS粒子干渉による強制の呪いはマサキの神経を掻き毟り、対PS粒子デバイス【真核】が埋め込まれている彼の心臓を締め付けた。
 その干渉による衝動はかつて感じたどれよりも強烈で、伝わってくる殺意はマサキの自我をもすり潰してしまいそうな程であった。
 だが、皮肉にも評価型人工知能(イニシエのヒト)自体が持つ受動防衛機能、課せられた重力に対抗する為展開された【環境防衛干渉力場】は、マサキの意識を乗っ取ろうとする呪いの力さえも妨げた。

「ふぐぅぅ……ぅううううううぁあっ!」

 ――妨げたのだが、しかし課せられた暗示の効果に影響はない。マサキの持つ評価型人工知能(イニシエのヒト)の下した強制命令は、マサキの制御できない能力【ソロモンの枝】の噴出を阻止するには至らなかった。
 その身に宿る血伝因子(ブラッドプロトコル)【罪過の渦】の働きで、心の中に純粋な殺意が満ちる。
 万物を切り裂く殺意の枝の切っ先が、ゆっくりと、しかしはっきりと、彼女を捕らえた。

 ――が

 「そうだとしても、それは―――!」

 マサキはそれを制御した。

 マサキは見たのだ。彼は彼女がまぶたを閉じたその刹那、月明かりに反射してきらりと光るソレを、確かに見た。
 それが何かは言うまでもない。その光はマサキの覚悟を強くした。
 自分には彼女の涙も宿命も、すべてを拭い去る義務がある。そして今ソレができるのも、自分をおいて他にない。

 あの首にかかっている呪器を――

 やるべきことはただ一つ。彼女との間合いを一気に詰め、首にかかっている呪器を外す。だが走ってそれを成すのは無謀だ。展開した加重の呪いはずっしりとマサキの全身に圧し掛かっており、走るどころか歩く事すらままならない。

 ――イチかバチか……!

 「はああああああああ!!」

 考えている時間はない。腰を落とし身体を支え、彼は丹田に力を込める。
 今のマサキには力みを伴う【理念典礼】しかできないが、先ほどから騒いでいるこの強力な腕輪――評価型人工知能(イニシエのヒト)デバイス【夜魔の輪環】――の能力を発動させるスイッチとしてなら、それで十分だった。

 ワラワニ、委ネヨ……。

 忌むべき呪器【夜魔の輪環】がその封を段階的に解かれ、自由となった憑き物が漆黒の霧となってマサキにまとわりつき始める。
 マサキの内に、どす黒く、粘着質で、甘美で鈍重な感覚が染み込んでくる。
 それは頭に、胴に、指先に、爪先にと、あっという間に隅々まで広がった。

 「くあああああああ!!」

 叫ぶ事で意識を繋ぐ。マサキに内包されている限られたPS粒子が、得体の知れない闇に掻きだされていく。

 「どうして……そんなものを持ち出してきたの? 苦しむだけなのに」

 その叫びに反応しうっすらと目をあけた彼女が、マサキを見下ろし呟く。
 マサキの動きを黙認するつもりは無いと言いたげに、彼女は加圧を展開したままもう一組の呪器(デバイス)、マサキとは違う形状の輪環を、両手で両肘辺りから両手首まで引っ張り下ろした。

 それは極自然に、極あっさりと、マサキの強引なやり方とは比べようもない程極自然に力を灯す。
 細く白い両手首の間で、細かいアーク放電現象が起きた。その呪器(デバイス)は――マサキにも見覚えがある――遙が奪われた地上最強を謳う破壊の呪器(デバイス)【雷光環】。

 右手で左手首の輪を押さえ、左手で右手首の輪を押さえ、まるで天に祈りを捧げているかのような格好で、彼女は最後の一言を告げる為の息を吸う。

 そこで、マサキは、吼えた。
 
「ちっくしょおお!なんだってそう、意地っぱりなんだよおまえらあああああ!!!」

 刹那――雷鳴が、空いっぱいに轟いた。
 純白の閃光が走った後、何もかもをも炭化させる破壊の渦が地を這った。幾つもの枝を持った青白い稲妻が、時を感ずる暇も与えずマサキそのものを飲み下す。


 ――その場に、光があふれた――


2016年8月2日火曜日

エクセルで日付曜日自動更新

まずA1に西暦を入れます。
A2に月を入れます。

A4に =DATE(A1,A2,1) と入力します。
A4セル右下にカーソルを動かしてプラスマークになったらドラッグし下まで引っ張ります(日付が自動で出て来ます)。

B4に =TEXT(A4,"aaa") と入力します。
A4セル右下にカーソルを動かしてプラスマークになったらドラッグし下まで引っ張ります(曜日が自動で出て来ます)。




(西暦or月)を変えれば(日付&曜日)は勝手に切り替わります。

色は後から手動でつけました。

2016年7月23日土曜日

「オタク(Nerd)」から「All(全員)」へ

 今からさかのぼること20年以上前、スティーブ・ジョブズはコンピュータープログラミングについて熱弁を振るっていた。

「この国のすべての人がプログラミングを学ぶべきだね。なぜなら、プログラミングは、我々がどのように思考するべきかを教えてくれるのだから」

「それは法律の学校に行くようなものだ。誰もがみんな弁護士になる必要はないが、法律を学ぶことは、ある視点から思考する方法を教えてくれる点で有益だろう。だから、私はコンピューターサイエンスをリベラルアーツ(一般教養)だと思っている。誰もが人生のうちに、学んでおくべきという点で」――「スティーブ・ジョブズ1995 失われたインタビュー」より――


「全ての人にコンピューターサイエンスを(Computer Science for All)」

 2016年1月、米国のオバマ大統領が大方針をぶちあげた。デジタル経済を生き残っていくために、学生を始めとするあらゆる国民に、プログラミングを含めたコンピューターサイエンスのスキルが必要になると説いた。

 テクノロジー業界だけでなく、交通、ヘルスケア、教育、金融サービスなどあらゆる産業がデジタルシフトしていく中で、米国では2018年には、いわゆる理系的なSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)の職種のうち、51%がコンピューターサイエンス関連になるとされる。

 このため米政府は、特に小学校から高校生の児童・生徒らが、デジタル社会において、単なる消費者ではなく、能動的なクリエイターとなるための「プログラミングの基礎素養」を身に付けるよう教育面の改革に着手した。

 当時ようやく普及し始めたパソコンだけでなく、スマートフォンに、ウェアラブル、あらゆるモノがインターネットにつながり(IoT)、データ量が指数関数的に増える中で、人工知能(AI)の隆盛など、テクノロジーは日に日に増して我々の生活にとって身近なモノになっている。
 そしてそのいずれもその背後ではデジタルのソフトウェアが活躍し、その仕組みを知ろうと思えばプログラミングが必要になる。

 オバマ大統領の大方針は、コンピューター・プログラミングが、もはやオタクだけでのものでなく、ジョブズが予見した通り、誰もが学んでおくべき本当の「一般教養」になったという意味で意義深い。



 もう一点注目したいのは、この発言をしたジョブズ自身がプログラマーではないことだ。

「スティーブは、コードを書いたことはなかった。彼はエンジニアではなく、最初の設計をしたこともなかった」

 2012年、ジョブズと共にアップルを創業したスティーブ・ウォズニアックはこう明らかにしている。

 コードを書くというのは、コンピューターに指示を出すプログラミングにおける具体的な行為のこと。つまり、ジョブズはプログラミングをできたわけではないということだ。
 だが、ウォズニアックは、同時にこうも指摘している。

「だが、彼は設計デザインを、変更し、変化させ、追加するレベルには、十分なテクニックを持っていた」

 つまりジョブズは、エンジニアとしてのスキルはなくても、コンピューターがどういう仕組みで動き、どのようにプログラムを書き、何を生み出せるのかというそのメカニズムの根本を押さえていたのだろう。

 今やマイクロソフトのビル・ゲイツから、グーグルのラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグまで、米ITの巨大企業では、プログラミングやコンピューターサイエンスに卓越した人材が創業者となっている。

 一方で、アップルがジョブズの下で収めた成功の数々を考えると、「コードを書けなくてもきちんと分かる」ということの重要性は、ビジネス面でも、とてつもなく大きいのかもしれない。

「誰もがみんなプログラマーになる必要はないが、プログラミングを学ぶことは、ある視点から思考する方法を教えてくれる点で有益だろう」

 冒頭発言に加えるならばこう言えるかもしれない。そしてそれは、ビジネスに携わるあらゆる人々にとっても然りなのだろう。

 多くの大学では、ビジネスとコンピューターサイエンスの学位を一緒に提供する動きが出ている。さらには、ビジネス分野でも、多くの産業の幹部候補らがプログラミングの勉強を始めているという。
 つまり、いわゆる文系のビジネスパーソンでも、プログラミングの素養を持つことが、経営の大きな手助けになり得るのだ。

「金融やコンサル、小売業、モノづくり企業など、IT企業以外からでもプログラミングを学ぶ人が急速に増えている。まさにあらゆる産業が、ソフトウェア産業になっているのです」

 世界最大のプログラマー向け交流サイト「ギットハブ(Github)」のカクル・スリバスタバ氏はこう指摘する。
 そして、この動きは、もちろん米国だけのものではない。

 今年4月、日本政府は、米国に続けとばかりに「第4次産業革命に向けた人材育成総合イニシアチブ」と題した大方針を発表した。

 AI、IoT、ビッグデータ、セキュリティー、データサイエンティストなどの人材を育成することや、2020年の小学校でのプログラミング必修化を含め、大学までの情報・数理教育の強化など、まさにてんこ盛りの内容だ。

 特に小学校の必修化には、批判も多く、
「義務教育で教えられると、嫌いになる児童を増やす可能性がある」
「先生に教えるキャパシティとスキルがない」
「好きな児童だけやらせればいい」
などの意見が根強く、どれも確かに説得力はある。

 だが、あえてここでは、今後の大きな可能性に目を向けたい。

「これまでは長年、小学校のプログラミング教育で、子どもたちがゲームを作ってもらい、『またやりたい!』といつも喜んでも、継続して出来る環境がなかった。それが、子どもたちの『喜び』を持つ機会がつながっていくことが何よりも大きい」

 世界で1200万人以上が登録する子ども向けのプログラミング言語「スクラッチ」の伝導者である青山大学の阿部和広客員教授は、こう述べる。一時期は必修化に反対だったが、今はポジティブな側面を見ているという。

 そして、その『喜び』を見つける人材が増えていくことは、国の戦略や産業界のニーズと直接関係なかったとしても、一番大事なことかもしれない。

「プログラミングを学ぶことは、コードを書くだけではありません。それは読み書きを学ぶことが、新たな学びを生み出すことと似ています。より重要なのは、コードを書くことで、様々なことを学ぶ(Code to learn)ことができるということなのです」

 MITメディア・ラボのミッチェル・レズニック教授もこう述べている。

 つまり、プログラミングはデザインや音楽、経営を学び、解決するための「手段」であり、未来を切り開いていくための「道具」となるのだ。

2016年7月13日水曜日

小説賞の締め切りまとめ

文學界新人賞(文藝春秋)
【締切】 2016年9月30日
(当日消印有効。Web応募は2016年8月より受付開始、9月30日24時締切)
 【発表】 「文學界」 2017年5月号 (同年4月号に予選の通過者と作品名を発表します)


  群像 新人文学賞
締切▪2016年10月31日




  文藝(河出書房新社)
 2016年3月31日 (当日消印有効)


  新潮新人賞(新潮社)
 二〇一七年三月三十一日(当日消印有効)


  第41回すばる文学賞(集英社)
 2017年3月31日 (当日消印有効)

2016年7月5日火曜日

難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療法開発

 今まで有効な治療法がなかった筋萎縮性側索硬化症(ALS)について、発症原因に根ざした新規治療法の開発に成功したと発表。
(国際医療福祉大学臨床医学研究センターの郭伸特任教授(東京大学大学院医学系研究科講師)らと東京大学の研究グループ)

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は中高年に多く、進行性の筋力低下や筋萎縮を特徴とする神経難病で、有効な治療法がなかった。
 ALSの大多数は遺伝性のない孤発性ALSで、研究グループは、ADAR2という酵素の低下が過剰な細胞内カルシウム流入を生じて、孤発性ALSの運動ニューロン(運動神経細胞)死に関与していることを突き止めていた。

 孤発性ALSでは異常にカルシウム透過性が高いAMPA受容体(グルタミン酸受容体の一種)が発現している。ペランパネル(製品名「フィコンパ」エーザイ株式会社)は抗てんかん薬だが、グルタミン酸によるAMPA受容体の活性化を阻害し、神経の過興奮を抑制することから運動ニューロン死の抑制が検討された。

 今回、研究グループは、ペランパネルをALSモデルマウスに90日間連続で経口投与した。その結果、運動機能低下の進行とその原因となる運動ニューロンの変性脱落が食い止められた。
 しかも、運動ニューロンで引き起こされているALSに特異的なTDP-43タンパクの細胞内局在の異常(TDP-43病理)が回復・正常化した。
 また、発症前のみならず発症後に投与した場合でも、運動ニューロン死による症状の進行が抑えられた。

 モデルマウスでの結果だが、ペランパネルは既承認のてんかん治療薬であり、ヒトに換算した場合にてんかん治療に要する用量以下でマウスに有効性が確認出来たことから、臨床応用へのハードルも低いと考えられ、ALSの特異的治療法になるものと期待される。

2015年12月19日土曜日

賢き選択。米国の教育制度の分岐点

米国の教育制度に関わる超党派の法案が10日、オバマ米大統領による署名を経て法律として成立。
これはテクノロジー業界にとって朗報。
コンピューターサイエンスが算数・数学や英語(国語)と同じくらい重要な科目として位置づけられた。
法律を踏まえて、コンピューターサイエンスを科目として教える学校が全米各地で増える可能性が出てきた。

初等および中等の教育制度を扱うこの新たな「Every Student Succeeds Act(児童生徒が全員成功する教育法)」が定める包括的な科目構成の定義にコンピューターサイエンスが含まれた。
州や地域の行政当局にしてみれば、他の科目と同様に連邦予算が振り分けられる対象になった。

労働市場では技術をもったプログラマーの需要が増えている一方、供給が追いついていないのが現状だ。
コード・ドット・オーグによると、全米でコンピューター関連の求人は60万件超ある。
だが、コンピューターサイエンスの学位を持って就職した人は昨年、わずか3万8175人だった。

2015年11月14日土曜日

―― ゆにばーすっ!第2章~ゆりかご~ ――






 風が強い。
 丸い月が空に輝いている。
 星と月の光で青く染まる闇の中に、ひとつの人影が見えた。
 オレンジ色のマフラーを首に巻いて、両手を背中辺りで組んだまま、どこか遠くを見ているその人は、マサキのよく知っている顔をしていた。

 「……白畑さん」

 月明かりが、その肌を陶器のように白く輝かせている。
 冷たい夜風がスカートの白を弄んでいる。
 黒いタイツとの対比が鮮やかで、その姿はマサキの知っている彼女とは明らかに別のものだった。
 形容するなら――マサキは遙の童話に出てきた告死天使を思い出す。その原因はおそらく、あの魂の抜けてしまったような、それでいて鋭利で冷たい瞳のせいなのかもしれない。

 「来てくれたんだ」

 マサキに視線を移さぬまま、彼女は言った。
 その声はどこか重く、喜びとも失望とも取れない音をしていた。
 「白畑さん。……どうして――」
 「――わたし、言いましたよね」
 虚空に視線を投げたまま、のぞみはまるで独り言のようにマサキの言葉を言葉で遮った。過去に体験したことの無い彼女のその強引さはマサキに青天の霹靂とも思える衝撃を与え――彼の二の句は封じられた。
 「2番でもいいって。2番でいいから、マサキさんの事、好きなままでもいいですかって――でも、駄目なんです。気がついたんです。あぁ、それじゃあ、わたし、だめだなぁって」
 やっぱりだめなんです――彼女はもう一度、自分に語り聞かせるように呟く。
 「白畑さん……僕は」
 「でもやっぱり、一番でいたい。私はマサキさんの一番でいたい!一番でいたい!……よぅ……」
 その声は半ば絶叫で、半ば涙声だった。

 ――………。

 どうしたらいいのかわからない。己が無能にマサキは自己嫌悪を覚える。それは悔しく腹立たしく、そしてどうにもやるせない、筆舌に尽くしがたい思いとなって心の中に積もっていく。
 やがて耐え切れなくなり、最も愚かな選択肢にマサキは無意識で指をかける。
 「白畑さん。僕は君の事」
 「やめて!」
 その時、今までで最も大きい声を彼女は発した。思わずピクッとマサキは体を小さく震わす。

 「慰めなんていいんです。もう、これしかない。わたしにはこれしか……」

 スッ、と彼女が両腕を天に翳す。袖が重力にしたがって落ち、そこに丸い金色のブレスレットを嵌めた細い手首が月明かりの元に露出した。
 ブレスレットは三つの管が編み込まれた様に絡み合っており、環を三等分した場所にそれぞれ輝く石が嵌め込まれている。そのブレスレットを見て、マサキの心臓は跳ね上がるように鼓動を速めた。予想していた最悪の事態、恐れていた最もあって欲しくない推測が、真実であると確定した瞬間であった。

 「やっぱりわたし、姉さんを倒さなきゃ。両親はわたしを養子に出してまで運命を食い止めたかったみたいだけど、無駄になっちゃいます」
 「そんなのやめましょうよ。よくないですよ!実の姉妹なのに!」

 その言葉に、のぞみは初めて振り返りマサキの顔を見た。そして、わずかに微笑み――

 「結局、マサキさんも姉さんの味方なんですね。やっぱりそっか。あ、わたし、さっきっから、やっぱりやっぱりって。あはは、もう、なんか、壊れちゃったのかな。マサキさんのせいですよ、これ。あぁ、もう……。姉さんをやる前に……責任、とってもらいますね?」

 のぞみのブレスレット――雷光環――の三石が、月明かりに逆らう様に輝き始めた。